日本の金融の未来をアップグレードする

片山さつき金融相が語る、成長投資を支える金融の役割と世界の投資家へのメッセージ

世界の投資家が、日本の変化に改めて目を向けている。2025年10月21日、高市早苗政権の下で、財務相兼金融相に就任し、2026年9月17日の内閣改造で再任された片山さつき大臣。片山大臣のもとには、日本の政策の方向性を理解しようと、グローバルな大手金融機関や資産運用会社のトップが相次いで訪れている。

 片山大臣がこの重要な両ポストに就任したことは、日本において女性として初めての歴史的な出来事であるが、片山大臣は、行政官・政治家として培った財政・金融分野に関する豊富な経験で知られている。国際的な場面でも、スコット・ベッセント米財務長官との通貨・財政政策に関する協議などを通じて、市場からの注目を集めている。

 片山大臣が金融相として見据えているのは、金融の力で日本の成長戦略を前に進めることである。大臣就任前には、自民党の金融調査会長を4年間にわたって務め、金融分野の政策議論をリードしてきた。日本経済には大きな家計金融資産と厚みのある企業基盤がありながら、民間のリスクテイクと成長投資は長く十分に広がってこなかった。金融・資本市場を通じて、家計の資金を企業価値向上へつなげること。そして、銀行が金融仲介機能を発揮し、企業の成長を支えること。直接金融と間接金融の双方を視野に入れた日本の金融エコシステムの強化が、片山大臣の問題意識の核心にある。

 2026年7月21日、日本政府は「成長投資を促進するための金融戦略-資産運用立国のアップグレード-」を公表した。これは、インベストメントチェーンを強化してきた「資産運用立国」の取組みを発展させる、新しい金融分野の成長戦略である。金融・資本市場では、企業価値向上を促すコーポレートガバナンス改革や資産運用業の高度化を通じて、国内外の資金を成長分野に振り向ける。間接金融では、銀行等の資金供給・成長支援機能を高め、地域を含む企業投資を後押しする。さらに、サイバーセキュリティやAI・オンチェーン技術の進展への対応を、金融システムの信頼性と効率性を支えるインフラ強化として位置付けている。

 2023年秋以降、毎年開催している「Japan Weeks」は、日本の金融・資本市場の魅力と政府の取組みを世界の投資家に向けて発信する場として定着してきた。2026年10月の「Japan Weeks 2026」を前に、ブランズウィック・グループのパートナーである宇井理人が、片山大臣にインタビューを行った。

大蔵省時代のご経験は、現在の金融相としての使命感にどのようにつながっていますか。

 私は1982年に大蔵省に入省し、証券局の係長として、米証券取引委員会(SEC)との協議や証券監督者国際機構(IOSCO)への日本の参加を担当しました(1986-88年)。その後、1990年代後半に、日本の金融危機対応が最も大変だった時期に主計局から銀行局に移り、住専問題、不良債権処理、債権流動化に関する制度づくりに携わりました(1996-97年)。それまで日本になかった制度をかなり作った、という実感があります。

 その過程で、公的資金投入の制度が十分に整っていない中で金融機関が破綻していくのを間近に見ましたし、貸し剥がしによって実体経済が大きく傷ついたのも見てきています。政治家や行政が、金融のもたらす大きなプラスの力もマイナスの力も十分に理解していなかったために、こうしたことが起きたのだと思いました。それは、私にとって非常に大きな教訓です。

 金融庁は、日本の金融危機への対応と反省を通じてできた組織です。私は、こうした過程を実際に見てきた人間なので、「今度は上手くやりたい」という気持ちが常にあります。自民党の金融調査会長を務めた4年間も、ずっとそう思ってきました。金融システムの安定、利用者保護、市場の透明性は、金融行政の土台です。そうした土台があって初めて、金融は経済にプラスの力をもたらすことができます。

政府は2026年7月、「成長投資を促進するための金融戦略」を策定しました。なぜ今、この新しい戦略が必要なのでしょうか。

 日本で長く足りなかったのは、民間投資、とりわけ企業の成長投資です。企業部門において一貫して貯蓄超過が続いていることは、主要先進国の中でも日本の大きな特徴です。長い目で見れば、1990年代後半の金融危機のショックが、完全には終わっていないのだと思います。

 貸し剥がしの経験を経て、企業は内部留保をため込み、金融機関の側もリスクを取らない傾向が強まった。しかし、リスクを取らなければ、金融機関は本来の役割を果たせません。これまで、金融によるレバレッジ機能が十分に発揮されてこなかったことへの反省があります。

 金融が成長戦略の中心の横串として機能することで、強い日本経済を実現することができます。

「資産運用立国のアップグレード」は、家計の資産形成と金融・資本市場を通じた成長投資をどのようにつなげていくのでしょうか。

 「資産運用立国」は、非常に重要な取組みであり、さらに発展させていきます。私は、国民が幸せになるための政策だと考えています。

 高齢化社会の中で、引退を迎える時に家計が十分な金融資産を持っていることは、とても大切です。米国では、株式や退職口座を通じた資産形成により、引退時に老後の生活を支える一定の金融資産を持つ人が多くいます。日本はまだこれからですが、資産形成・資産運用の裾野を広げることで、引退後の生活に明るい展望を持てる社会にしていくことは、日本でも可能だと思います。

 そのためには、家計、企業、資産運用会社、アセットオーナーなどのインベストメントチェーンを構成する主体が、それぞれの役割を果たしていくことが大事です。家計の資金が金融・資本市場を通じて企業の成長投資に向かい、その成果がまた家計に戻っていく。こうした好循環を強くしていきたいと考えています。

日本企業には、どのような変化を期待していますか。

 日本企業の間では、資本コストや株価を意識した経営が進み、配当や自社株買いによる株主還元の重要性については、十分に認識されてきたと思います。ガバナンス面でも、かなり進捗が見られています。東証プライム市場では、上場会社のほぼ全てが、取締役会の3分の1以上を独立社外取締役として選任するようになりました。かつてと比べ、日本企業の経営者の意識はかなり変わってきています。

 一方で、これから重要なのは、株主還元と成長投資の適切なバランスです。適切な株主還元を行うことは重要ですが、資金を前向きな成長投資に振り向けていかなければ、中長期で魅力のある会社にはなりません。海外の先進企業では、株主還元と成長投資のバランスをとてもよく取っています。近年、日本企業では、資金配分が株主還元に偏る面が、少し極端だったと思います。

 2026年7月には、コーポレートガバナンス・コードを改訂し、企業が、株主還元や将来の企業価値を高める成長投資を含む経営資源の配分について、バランスをよく考えるべきであることを盛り込みました。機関投資家の行動原則であるスチュワードシップ・コードとも補完的に機能させながら、日本企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上につなげていきたいと考えています。

地域金融機関を含む銀行セクターは、どのような役割を果たすべきでしょうか。

 銀行には、成長投資を実現していくうえで、非常に重要な役割があります。日本では、金融危機や貸し剥がしの経験を経て、金融機関がリスクを取りにくくなった面がありました。しかし、リスクを取らなければ、金融機関は経済の成長を支える重要な役割を果たせません。金融機関が本来の姿に立ち戻り、レバレッジ機能を発揮していくことが大事だと考えています。

 政府が政策の方向性を示しても、民間の投資や融資がついてこなければ、成長投資は持続しません。そこで重要になるのが、案件がバンカブル、つまり投融資可能であるかどうか、という視点です。銀行には、リスクを避けるだけではなく、成長の可能性を見極め、民間資金が入っていける形に案件を磨き、必要な資金を供給していく役割を果たして欲しいと思います。

 地域金融機関については、2025年12月に「地域金融力強化プラン」を策定しました。地域の企業やプロジェクトを支えるうえで、地域金融機関の役割はとても大切です。地域金融機関が地域の経済や事業を深く理解し、その資金仲介機能を地域の成長につなげていく。そうした取組みを通じて、成長投資の裾野を全国に広げていきたいと考えています。

政府による成長投資の促進と財政の持続可能性は、どのように両立させるべきでしょうか。

 高市政権が進める「責任ある積極財政」は、放漫財政ではありません。強い経済をつくりながら、財政の持続可能性にも非常に留意しており、国債市場の動向にも注意深く目を配っています。

 重要なのは、財政支出を規模ありきで拡大することではなく、成長につながる分野に、規律をもって資金を重点的に振り向けることです。2027年度予算の編成では、「強く豊かな日本」投資枠を通じて予見可能性を高めながら、成長が見込まれ民間投資を呼び込める分野を後押ししていきます。一方で、いつまでに何を実現するのか等、5W1Hが明確であることを重視し、規律を効かせて査定を行います。

 政府の役割は、市場に代わることではなく、民間が前に踏み出せる条件を整えることです。民間投資だけでは負担しきれないリスクを政府が適切に分担し、成長投資や危機管理投資を大胆かつ戦略的に進めることです。ワイズスペンディングを徹底しながら、成長への投資と財政の持続可能性を両立していきたいと考えています。

金融システムを支えるインフラの強化に向けて、サイバーセキュリティやAI・オンチェーン技術の進展にどう向き合いますか。

 金融インフラの高度化は、日本の金融システムの信頼性と効率性を高めるうえで重要です。

 まず、オンチェーン金融については、貿易金融などで、業務の効率化や顧客向けサービスのスピードと利便性の向上が期待できます。金融庁としても、関係省庁との連携や実証実験の枠組みを通じて、オンチェーン金融の社会実装に向けた民間の取組みを後押ししていきます。あわせて、何をピア・ツー・ピアで行うことが望ましいのか、オンチェーンとオフチェーンをどのように使い分けるのかなど、新しい技術をどう制度の中に位置づけるかについては、国際的な議論が必要です。日本としても、国際会議の場などでしっかりと発言していきたいと思います。

 先端AIとサイバーセキュリティについては、米国から早期に関連情報の共有を受けるなど、様々な課題の把握を進めてきました。AIを使ってプログラムの脆弱性を見つける技術は、防御にも使えますが、同時に攻撃用のツールにもなり得ます。金融機関は、ネットワークを切り離せば済むわけではありません。つながっていなければ、送金もできず、金融機関としての機能を果たせないからです。だからこそ、どのような脆弱性に直ちに対処すべきか、何をどの程度のコストをかけて守るべきか、といった優先基準の設定が重要になります。対応に課題を抱える金融機関があれば政府としても支援し、特に日本のメガバンクについては、世界的にも大きな規模を持つ金融機関にふさわしい強固な防御体制を整えていきたいと考えています。

最後に、世界の投資家に、どのようなメッセージを伝えたいですか。

 今、海外から日本への注目度は非常に高いです。グローバルな大手金融機関や資産運用会社のトップが相次いで私のところに来られ、じっくり意見交換をしています。大事なのは、その関心を実際の投資につなげ、継続させることです。

 日本は、これだけ大きな国でありながら、かつて十分なセーフティネットがない中で金融機関が破綻するという経験をしました。私たちには、失敗の経験もそこから立ち上がる経験も、豊富にあります。現在、日本の金融機関は、自己資本という意味では相当厚く、守りの面ではしっかりしています。そのうえで、これからは金融機関がリスクを取ってレバレッジ機能を発揮し、日本経済に金融のプラスの効果をもたらしてくれる時期だと思っています。日本は、過去の経験から学び、金融の力で成長戦略を前に進める新しい段階に入っているのです。

 毎年秋の「Japan Weeks」も国際的に定着してきました。世界の投資家の皆さんには、ぜひ実際に日本に来て、直接、日本で今起きている変化を見ていただきたいです。


宇井理人 ブランズウィック・グループ パートナー。2026年より、内閣官房「日本成長戦略会議・新戦略策定のための資産運用立国推進分科会」構成員、金融庁「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」メンバー。片山大臣は、前者の分科会長、後者の座長を務める。