企業価値を高める戦略的な投資家エンゲージメント – 第2回:AI時代のエンゲージメント
前回の記事では、当社が2025年末に実施した投資家サーベイ*1を手がかりに、海外投資家が求める成長ストーリーのエッセンスを概説した。今回は、引き続き同サーベイを拠り所に、投資家が企業に関する情報収集を行う際の主要な手法を概観するとともに、近年進展が著しい生成AIの活用がもたらす影響についても整理する。
投資家はCスイートとの面談を最重要視
投資家が投資対象の企業を調査する際、多岐にわたる情報源から関連情報の収集を進める。当社サーベイによると、投資家は「Cスイートとの面談」(77%)を最も重要な情報源と位置付けており、これに「投資家向け説明会」(65%)や「IR担当者との面談」(63%)等が続いた。この結果から、面談を含む対話の機会が特に重視されている様子が明らかとなった。一方、「生成AIによるアウトプット」(24%)が重要な情報源として浮上している点も見逃せない(図1)。
[図1:投資対象の企業を調査する際、重要な情報源はどれか?]*2

企業にとっても、投資家の自社に対する成長期待を高める上で、直接対話の機会は重要となる。これまで自社に投資をしてこなかった投資家を惹きつけるとともに、既存の株主との間でも、度重なる対話を続けることで、自社に対するさらなる成長期待の創出や、資本コストの低減に資するコミュニケーションが求められる。自社への価値評価を巡って、投資家との間で大きなギャップがある場合は、まずはその原因を分析し、ギャップ解消に資する情報や適切な視座を提供できるよう、積極的な取り組みも求められる。
Cスイートの一翼を担い、投資家との対話で重要な役割を担うのがCFOであるが、CFOに求められる役割期待を巡り、特に海外投資家と日本企業の間でギャップが見られる。海外投資家はCFOに対して、不採算事業の撤退など厳しい判断を含め、経営戦略に深く関与することを期待する*3。他方、日本企業の中には、投資家受けを意識して、それまで自社の「金庫番」を担ってきた財務・経理責任者の肩書きを「CFO」に変更するも、肝心の職務内容が見直されず、経営戦略への関与が限定的に留まるケースが散見される*4。そのような場合、「Cスイートとの面談」は形式的なものに留まり、実質的な内容を欠くことになる。
具体的な対話の方法にも課題が残る。当社が過去に支援した企業の中には、投資家面談やプレゼンテーションにあたって、数十ページに及ぶ分厚い資料を用意し、詳細な説明に注力するケースが少なからずあったが、この結果、肝心のストーリーが埋もれてしまい、印象に残りにくくなる。日本的な網羅的かつ丁寧な説明は、グローバル投資家には必ずしも評価されない。特に、これまで接点のない投資家にアプローチする際、限られた時間で自社の魅力を伝えることが求められる場面もある。そのためには、事前に明確なトーキングポイントを用意し、数ページ程度の資料であっても簡潔に成長ストーリーを伝達する工夫が求められる。
AI時代のエンゲージメント
今回の調査では、投資家が積極的に生成AIを活用している実態も明らかになった。回答者の54%が「投資調査において生成AIが重要な役割を果たしている」と回答し、68%が「決算説明会における情報収集・分析の方法が変化した」と答えている。具体的用途に目を向けると、総じて、既存業務の効率化に主眼が置かれている。例えば、ニュースの要約やSEC提出資料の情報収集・整理、簡易的なリサーチ業務において、生成AIによる代替が進んでいる様子がうかがえる(図2)。「重要な情報は自分で確認するが、それ以外はAIに要約させている」「決算説明会のスクリプトをLLMに読み込ませ、質問をすることで、見落としの有無を確認している」といった声も聞かれた。
[図2:どのような場面でAIを活用しているか、またAIの有用性に疑問が残る用途は何か?]

他方で、ハルシネーションを含むアウトプットの不正確性に対する警戒感もあり、意思決定に関わる重要な情報分析ほど、生成AIの利用に慎重な姿勢が見られる。「情報収集に偏りがあり、誤った情報を生成する可能性がある」「数字に弱く、誤りが含まれる場合もあり、深い示唆は出せない」といった声があったほか、「過去の情報に依拠しており、最新のニュアンスを十分に捉えられない」「特定のキーワードに過度に反応することがあり、結果として偏った見通しを示すことがある」といった指摘もあった。したがって、情報収集の効率化には生成AIを活用する一方で、重要な情報については自らの目で確認する姿勢が維持されている。実際、75%が「重要な企業情報は、生成AIに任せず、直接確認する」と回答している。
比較的単純な情報収集の領域で生成AIの活用が広がる中、企業の情報発信は、生成AIによって横断的に照合・再構成されることを前提としたものへと変化しつつある。この環境下では、企業が「何を語るか」だけでなく、どの情報が生成AIに認識され、また、どの情報と結び付けて解釈されるかが重要となる。生成AIは、企業の最新の公式発表に加え、過去の開示資料、第三者による分析、メディア報道、SNS上の言説等を同時に参照する。そのため、企業が意図して発信したメッセージよりも、整理されていない過去情報や外部評価が、生成AIによる解釈に影響を与える可能性がある。したがって、情報発信においては、メッセージの内容そのものに加え、生成AIが参照・再利用する情報源の構造を設計するという視点も求められる。
まずは、企業ウェブサイトを情報発信の中核として位置付け、生成AIが読み取りやすい設計を意識する必要がある。例えば、PDFに加えてHTML形式でも情報を提供する、動画にはスクリプトを付すなど、生成AIの可読性を踏まえた対応が求められる。Q&Aの内容も、一貫性と継続性を確保することが重要である。さらに、対外的なメッセージの整合性を担保する必要がある。IRと広報の連携が不十分な企業に見られるメッセージの不一致は、生成AIを介して増幅される可能性がある。今後、IRウェブサイトにおける情報設計や開示構造が、AIによる取得・分析の容易さを左右し、それがそのまま投資家との接点の質に直結する時代に入る。デザインやユーザビリティはもはや装飾的要素ではなく、企業価値形成を支えるインフラそのものである。
次回は、投資家の信頼を獲得するための対話の在り方を概説する。投資家はどのような情報発信や対応を歓迎し、どのような振る舞いに不信感を抱くのかを整理しながら、投資家との望ましい関係構築のポイントを考えたい。
*1 『2026 U.S.INVESTOR SURVEY』(ブランズウィック・グループ、2026年1月発行)詳細については、当社ウェブサイトをご参照。
*2 各情報源について、「極めて重要」または「非常に重要」と評価した回答者の割合。
*3 CFOの役割を巡る認識ギャップについては、徳成旨亮『CFO思考 日本企業最大の「欠落」とその処方箋』(ダイヤモンド社、2023年)を参照されたい。
*4 KPMGジャパン『KPMG JAPAN CFO Survey 2025/26』(2025年)を参照されたい。
なお、本稿はパートナーの福岡侑希が日本CFO協会発行のオンラインマガジン『CFO FORUM』に寄稿した記事を転載したものである。
筆者・福岡侑希の略歴はこちらからご覧いただけます。